B-38:AIをまだ使っていない会社は、どこで止まっているのか
AIに手を付けていない会社は、まだ多数派です。
使っている会社は、まだ2割ほど。止まっている場所は5つに分かれます。どこで止まっているのかを見分けるところまでをお伝えします。
AIを使っている会社は、まだ2割です
「そろそろうちもAIを」と言われて、そのままになっている。よくある状態だと思います。
数字で見ると、中小企業でAIを導入しているのは20.4%です。検討中の18.6%を足しても、4割に届きません(中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査。2025年11月から12月にかけて、1,647社に聞いたものです)。
使っていない会社のほうが、まだ多い。乗り遅れた、という話ではありません。
ただ、その2割の中身も、ひとまとまりではありません。導入した会社に目的を聞くと、業務効率化が87.0%。2番目の品質向上32.3%とは50ポイント以上開いています。作業を速くするところで使われている、と読める数字です。
この調査は、使い方がどの段階まで進んでいるかまでは分けていません。段階で分けると何が見えるかは、この記事にあります。
「B-37:社内でAIの使い方がそろわない本当の理由は、利用ルールではありません」
止まっている場所には、偏りがあります。そこを先に見ておくと、次に何を読めばいいかが決まります。
国は、これを「AX」と呼び始めました
2025年12月、政府がAIの基本計画を閣議決定しました。そこに「AIトランスフォーメーション」、略してAXという言葉が出てきます。業務やしくみだけでなく、組織や企業文化まで変えることを指しています。
言葉そのものは覚えていただかなくて構いません。規模も問いません。大企業も同じ言葉で語られています。
そのうえで、翌年の中小企業白書が、これを中小企業の話として扱いました。中小企業は遅れているから支援する、という書き方ではありません。中小企業のほうが向いている、という書き方です。
企画、事務、広報、会計。人を雇えずに社長が抱え込みがちな仕事を、AIが引き受ける。そして出てきた答えを、社長がその場で決められる。稟議も部門間の調整もいりません。この身軽さがあるから中小企業のほうが変わりやすい、というのが白書の見立てです。白書はこれを「AX変容力が高い」と呼び、成長と逆転の切り札という言い方までしています。
添えられた図では、AIの側が「AI部下」、人の側が「ボス力」と「現場力」と書かれています。雇えなかった人手が、指示を出す側に回るだけで手に入るという絵です。
使っていない理由は、5つに分かれます
同じ白書に、AIを活用していない理由を聞いた結果が載っています(2026年4月公表。3,888社の回答です)。多い順に、5つ。
- 何に使えばいいのか、思いつかない
- 任せられる人がいない
- 使わせていいのか、決まっていない
- 情報が漏れないか心配
- お金をかけられない
当てはまるのは、たいてい2つか3つです。先に引っかかっているほうから見てください。
何に使えばいいのか、思いつかない
63.4%。3社に2社が、ここで止まっています。
AIが何をしてくれるのかが分からないまま、道具の名前だけが増えていく。当然の詰まり方だと思います。何から始めるか。自社のどの業務が向いているか。そして、返ってきたものをどう扱えばいいのか。この3本です。
「B-17:AIって結局、何から始めればいい? —中小企業経営者のためのAI活用入門と実例」
「B-20:うちの会社、AIで何が自動化できる? —業種別・業務別、中小企業のAI活用マップ」
「B-18:AIは「壁打ち相手」であって、答えを出す人間は自分だ —複数AIに同じ質問をして気づいたこと」
任せられる人がいない
40.0%。担当者を決めるところで止まる形です。
外注するか、社内で育てるか、伴走してもらうか。育てると決めたあと、最初の3か月で何をするか。そして、覚えてもらう中身がこの2年で変わったこと。順にこの3本です。
「B-30:社内にIT担当がいない —外注・自社育成・伴走支援、どれが自社に合うか」
「B-31:「IT、任せておいて」と言える社員を育てるには —中小企業のIT担当者、最初の3か月でやること」
「B-36:IT担当者に、もう手順を覚えてもらわなくていい —AIに渡せる操作と、人に残る言葉の線引き」
使わせていいのか、決まっていない
26.2%。4社に1社が、ここです。
社員に使わせる前に、範囲と禁止事項を決めておきたい。順番としては正しいのですが、決めても出てくるものはそろいません。なぜそうなるか。そして、使い始めたあとに社長がやること。この2本です。
「B-37:社内でAIの使い方がそろわない本当の理由は、利用ルールではありません」
「B-21:社員がAIを使い始めたら、社長は何をすべきか? —ルール・評価・教育、現場導入後にやるべきこと」
情報が漏れないか心配
14.5%。入力した内容が学習に使われるのではないか、という不安です。
何に気をつければいいか。顧客や取引先のデータまで使いたくなったら、どこまで入れてよいか。そして、そもそも社内の守りが手薄なままなら、順番はそちらが先です。
「B-19:AIを使うときに社長が知っておくべきリスク —情報漏洩・著作権・丸投げの落とし穴」
「B-39:生成AIに個人情報を入れてよいか。範囲は、あとから広げられます」
「B-14:「ウイルス対策ソフトを入れているから安心」は危険 —中小企業が今すぐやるべきセキュリティ対策」
お金をかけられない
13.8%。数としては多くありませんが、相談の場ではよく出てきます。
ただ、AIは初期投資の要る道具ではありません。1人が1台で試すだけなら、月額で数千円です。社員の携帯電話1台ぶんと変わりません。
そして、使いこなしている会社を見ていると、月給数十万円の社員が1人増えたような働き方になっています。そこまで来ると、費用かどうかという話ではなくなります。
とはいえ、その数千円も出しにくい時期はあります。葛飾区や東京都には、ITの費用に使える補助金があります。それに、いま払っているものを見直すと、予算のほうが先に出てくることもあります。
「B-28:葛飾区・東京都のIT補助金・助成金まとめ —使える制度と申請で失敗しないポイント」
「B-29:毎月払っているIT費用、見直してみましょう —使っていないサブスクの探し方と削減のコツ」
どれも「AIに詳しくないから」ではありません
5つを並べてみると、見えてくることがあります。
何に使うかを決める。任せる人を決める。使わせる範囲を決める。守るものを決める。いくらまで出すかを決める。どれも、決める仕事です。
AIの知識が足りないから止まっている、という項目は入っていません。
そして決めるのは、担当者ではなく社長です。詳しくなってから決めるのではなく、決めてから詳しい人に頼む。順番は、そちらです。
では、その5つを決めるときは、何を基準にするのか。経営理念です。立派な標語のことではなく、判断が分かれたときに戻る場所を指しています。
「B-04:AIを使いこなせる会社と、そうでない会社の違いは何か? —経営理念とAI活用の意外な関係」
筆者の余談
25年この仕事をしていると、「うちにはまだ早い」と言われた道具が、数年後には当たり前になっている場面に何度も立ち会います。事務所にパソコンが1台も無い会社もありましたし、ホームページを持たない会社も普通にありました。
ただ、早く入れた会社が伸びたかというと、そうでもありません。あとから見て違いが出ていたのは、何のために入れるかを言えた会社のほうでした。
AIも同じだろうと見ています。いま2割の側にいるかどうかより、使うと決めたときに「何のために」を言えるかどうか。そちらが、あとで効いてきます。
当社では、その「何のために」を一緒に決めるところからお引き受けしています。何から手を付ければいいか分からない、という段階からで構いません。
この記事のまとめ
- AIを導入している中小企業は2割ほど。使っていない側が、まだ多数派です
- 白書は、中小企業のほうがAIに向いていると書いています
- 使っていない理由は5つに分かれ、たいてい2つか3つが重なっています
- 5つとも「決める仕事」で、AIの知識が足りないという項目は入っていません
- 決めるのは社長。その基準になるのが経営理念です