B-04:AIを使いこなせる会社と、そうでない会社の違いは何か? —経営理念とAI活用の意外な関係
中小企業が最大限AIを有効活用するためには、経営理念の整理から。
AI活用の成否を分けるのはITスキルではなく経営理念です。うまくいく会社・いかない会社の違いと、経営理念をAIで言語化する方法をお伝えします。
「ChatGPT(チャットジーピーティー)を使い始めたんだけど、なんか思ったより使えなくて……」
「Claude(クロード)ってなんだか、使い方が難しくて・・・…」
最近、こんな声をよく聞くようになりました。導入したのに活用しきれていない。試してはみたものの、日常業務に定着しない。そういった会社が、正直なところ少なくありません。
では、うまくいかない会社とうまくいく会社。何が違うのでしょうか。私たちはITの現場でさまざまな中小企業のAI活用を見てきましたが、うまくいかないケースにはある共通点がありました。それは、ITスキルが足りないのではなく、「何のために使うのか」が曖昧なまま始めてしまっているということです。
AIを入れたのに、なぜかうまくいかない会社がある理由
ツールより先に「何のため?」が必要だった
AIツールは非常に優秀です。使い方を覚えれば、文章を書いたり、アイデアを出したり、データを整理したり、さまざまな作業を助けてくれます。
しかし、ここに落とし穴があります。AIはあくまでも「指示を受けて動くもの」です。どんなに高性能なツールでも、使う側が「何を目指しているのか」「何を大切にしているのか」を持っていなければ、的外れなアウトプットが返ってくるか、そもそも何を頼めばいいのかがわからなくなってしまいます。
「とりあえずAIで業務を効率化したい」という目的では、あまりに漠然としすぎています。
目的が曖昧だと、AIは迷子になる
たとえば、「お客様向けのメールをAIに書いてもらおう」としたとき、あなたならAIにどう指示しますか?
目的や自社のスタンスが明確な人は、「うちは丁寧さより親しみやすさを大切にしているから、堅苦しくなく、でも失礼にならない文体で」と迷わず指示できます。
一方、目的や軸が曖昧な人は、AIが出してきた文章を見て「なんか違う気がするけど、どこが違うのかわからない」という状態になりがちです。
AIを使いこなすために必要なのは、実はプロンプトの書き方よりも、「自社が何者で、何を大切にしているか」という軸なのです。
AI活用の成否を分けていたのは「経営理念」だった
では、その「軸」はどこから来るのか。私たちが見てきた事例で、AI活用がうまくいっている会社には、ある共通点がありました。それは、経営理念がしっかりと言語化されているということです。
うまくいった会社に共通していたこと
経営理念が明確な会社は、AIへの指示がブレません。「うちはこういう会社だから、こういうアウトプットが必要」という判断軸を持っているため、AIを使う場面でも「これは自社らしい」「これは自社らしくない」とすぐに判断できるのです。
逆に、経営理念が曖昧な会社は、AIが出してきたアウトプットをそのまま使ってしまいがちです。結果として、どの会社も似たような文章、似たようなサービス案内になっていく。AIが普及するほど、この差は広がっていきます。
経営理念が「AIへの指示書」になる
ここで、葛飾区のある介護施設の例をご紹介したいと思います。同じ「介護施設」でも、経営理念が違えば、提供するサービスはまったく変わります。
「入居者様の自立を隣でサポートする」
入居者が自分でできることは見守り、必要なときだけ手を差し伸べる介護。スタッフは「どうすればご本人の力を引き出せるか」を常に考えて動きます。
「入居者様に精一杯のサービスを行う」
スタッフが積極的にサポートし、細やかで手厚いケアを提供。「何でもおまかせください」という姿勢で入居者と向き合います。
どちらが正しくて、どちらが間違いということではありません。どちらも立派な理念です。しかし、現場で起きることはまったく違います。
同じAIツールを使っていても、理念が違えばAIへの指示の仕方も、使い方も、活用する場面もまったく変わってきます。経営理念は、AIへの指示書そのものです。
AI時代だからこそ、「自社らしさ」が武器になる
AIが世の中に普及すればするほど、「AIを使っている」こと自体は差別化になりません。ツールは誰でも使えるからです。では、これからの時代に差がつくのはどこか。それは「自社らしさ」です。
AIが普及するほど、差がつくのは「人間の意志」
AIはどんな指示にも柔軟に応えてくれます。しかしその分、使う人の「意志」がそのままアウトプットに反映されます。
「うちは地域のお客様に長く寄り添いたい」という意志を持った経営者が使うAIと、「とりあえず効率化できればいい」という目的で使うAIでは、生み出されるものがまったく違います。AIという同じ道具を使いながら、アウトプットに個性と温かみが宿るかどうか。その差を生むのは、経営者の意志。つまり経営理念なのです。
理念のない会社のAIは、どこの会社にも似てくる
少し厳しい言い方をすると、経営理念が曖昧なままAIを使い続けると、アウトプットが「AIっぽい無難な文章」に染まっていきます。どの会社も同じようなホームページ、同じようなメール、同じようなSNS投稿。
お客様はそれを敏感に感じ取ります。「この会社、なんか機械的だな」「どこかで見たような内容だな」という印象は、信頼の積み重ねを静かに損なっていきます。
AI時代ほど、「この会社だからこそ」という個性が、お客様の心をつかむ力を持ちます。
経営理念は、堅苦しいルールじゃない
「経営理念を整備しましょう」と言うと、「うちみたいな小さな会社には大げさかな」「立派な言葉を考えなきゃいけないのか」と感じる経営者も多いと思います。でも、そんなに難しく考えなくて大丈夫です。
経営者の「理想」と「夢」を言葉にしたもの
経営理念とは、コンサルタントが作る立派なフレーズでも、額縁に入れて飾る標語でもありません。「自分はなぜこの仕事をしているのか」「お客様にどうなってほしいのか」「この会社で何を実現したいのか」そういった経営者の本音を言葉にしたものが、経営理念の本質です。
規模は関係ありません。社員が数名であっても、経営理念は機能します。むしろ、小さな会社ほど経営者の人柄や思いがそのまま会社の個性になるため、理念がダイレクトに力を発揮します。
「なぜこの仕事をしているのか」に戻れば見えてくる
もし「うちに経営理念なんてないな」と感じたとしても、焦らなくて大丈夫です。まず、こんな問いかけから始めてみてください。
- この仕事を始めたとき、何を実現したかったのか?
- お客様にどんな状態になってほしいのか?
- 自分の会社でなければできないことは何か?
これらの答えの中に、あなたの経営理念はすでに宿っています。言葉にされていないだけで、ずっとそこにあったはずです。
実は、経営理念をまとめるのにAIが役立つ
ここで一つ、面白い逆転があります。「AI活用に経営理念が必要」とお伝えしてきましたが、実は経営理念をまとめる作業そのものに、AIが役立ちます。
AIとの対話で「自分の言葉」が引き出される
経営理念を言語化しようとするとき、多くの経営者が壁にぶつかります。「頭の中にはあるんだけど、うまく言葉にできない」という状態です。ここでAIが活躍します。
「私はこういう仕事をしていて、こういうお客様と向き合っています。私がこの仕事で大切にしていることを整理するのを手伝ってください」
AIは質問を返してきます。「それはどんな場面で感じましたか?」「お客様にとってどんな変化が一番うれしいですか?」。そのやりとりの中で、あなたの中にある言葉が少しずつ引き出されていきます。
AIが経営理念を「作る」のではありません。あなたの中にある思いを、AIとの対話を通じて「言葉に整える」のです。
やってみると意外なほどスムーズに進む
実際に試してみると、「こんなに早く言葉になるとは思わなかった」とおっしゃる経営者が多いです。
もちろん、最初から完璧な言葉が出てくるわけではありません。AIが提案した言葉を見て「これはちょっと違う」「こっちの方が近い」と修正しながら進める、その対話のプロセス自体が、自分の思いを整理する時間になります。まずは30分、試してみてください。意外な発見があるはずです。
私は、葛飾区やその周辺の中小企業が、それぞれの強みや価値観を明確にし、個性あふれる会社になっていくことを願っています。
中小企業はどうしても価格競争や人材獲得競争に巻き込まれがちです。しかし、会社ごとの強みや目指す姿が明確になれば、「安いから選ばれる会社」ではなく、「この会社だからお願いしたい」と思ってもらえる会社が増えていくのではないでしょうか。
そして、オンリーワンの会社同士が増えれば、競争するだけでなく、お互いの強みを活かして協力できる場面も増えていくかもしれません。少し理想論に聞こえるかもしれませんが、私はそんな地域の未来を見てみたいと思っています。
この記事のまとめ
- 目的が曖昧なままAIを使っても、迷走するだけ
- 経営理念が明確な会社は、AIへの指示がブレない
- AI時代ほど「自社らしさ」が差別化の武器になる
- 経営理念は堅苦しいルールではなく、経営者の理想と夢
- 経営理念の言語化そのものに、AIは役立つ