B-43:AIを使っているのに、仕事が速くならない社長へ。分かれ目は、浮いた時間の使い道

AIは、社長も社員も使っている。それなのに、仕事が速くなった実感がない。できることは増えたのに、会社は変わっていない。そういう会社は、まだ使っていない会社とも、一度試してやめた会社とも、止まっている場所が違います。

仕事が増える理由は4つに分かれます。どれも、AIの性能の話ではありません。速くなる会社が何を先に決めているかまでをお伝えします。

目次

「使っているのに、変わらない」は、めずらしくない

使っているのに変わらない、という会社は、数字で見ると多数派です。

商工中金が2026年3月に公表した中小企業の調査では、会社として導入しているか、社員に利用を勧めている会社は約3割でした。その中で、経営にプラスの効果が出ていると答えた会社は、また約3割です。残りの約7割は、「有効な事例が出てきている」止まりか、「いまのところ効果はみられない」でした。

大企業でも同じです。2026年に公表された6か国の比較調査では、日本の大企業の9割近くがAIを活用・推進中でした。ところが「期待を大きく上回った」と答えたのは1割に届かず、米国は4割近くありました。使っているかどうかでは、もう差がつきません。

まだ使っていない会社の話と、試してやめた会社の話は、別の記事に整理してあります。この記事は、その先です。

「B-38:AIを、まだ誰も使っていない会社へ。止まっている理由は、AIに詳しくないからではない」

「B-42:AIを一度試して、やめた社長へ。続かなかった理由は、AIの性能ではありません」

仕事が増える理由は、4つある

AIを使うと仕事が増える。海外では、そういう調査が繰り返し出ています。読んでいくと、増え方は4つに分かれます。世の中で決まっている区分ではなく、複数の調査を並べて当社が整理した4つです。

  • 確かめる時間が増える
  • 中身のない文書が回ってくる
  • 空いた分だけ、仕事が積まれる
  • 自分で、仕事を広げてしまう

確かめる時間が増える

米国の研究機関が2025年に公表した実験では、経験の長い開発者にAIを使わせたところ、作業は2割ほど遅くなりました。ところが本人たちは、終わったあとも「2割ほど速くなった」と感じていました。出てきたものを確かめる時間が、感覚には残らないのです。

米国の別の調査でも、AIを使う社員の8割近くが「仕事が増えた」と答え、その中身で多かったのは「AIが出したものの確認」でした。

中身のない文書が回ってくる

見た目は整っているのに、中身が薄い。読んだ人が作り直すことになる。そういうAI作の文書を、米国の大学の研究者らは2025年に「ワークスロップ」と名づけました。事務職の4割が直近1か月に受け取っていて、1件の手直しに約2時間かかっています。受け取っているのは、上司に多いそうです。

社内だけの話ではありません。取引先や仕事仲間から届く提案や文面が、AIの答えのままということも、これから増えます。届いたものを確かめる時間は、送った人ではなく、受け取った人に乗ります。

空いた分だけ、仕事が積まれる

先ほどの米国の調査では、5人に1人が「AIを理由に、もっと仕事を頼まれるようになった」と答えていました。経営層のほとんどが「AIで生産性が上がる」と期待している一方で、空いた時間は、上から埋められていきます。

日本では、この形はまだ小さいと私は見ています。2026年に公表された日本の会社員の調査では、AIで減った業務時間は平均で2割弱、週にすると30分足らずでした。減った時間の6割は仕事に戻り、その大半は日々の業務の消化に使われています。上から積まれる前に、自分で埋めているのです。

自分で、仕事を広げてしまう

米国の大学の研究者らが、あるIT企業に8か月入って観察した結果が、2026年に公表されました。AIは時間を空けなかった。代わりに「自分にできる」と思える範囲を広げた、という結論です。他の人の仕事に手を出す。昼休みや夜に、思いついたときに指示を出す。複数の作業を同時に走らせる。どれも、誰にも頼まれていません。

日本にも実例があります。社員3,000人ほどのIT企業の会長が、2025年に「AIに全振りする」と宣言しました。既存の事業を半分の人員で回し、残りの半分を新しい事業へ移す計画です。その1年後、2026年3月に、公の場でこう話していました。効率化は進んだ。ところが、楽になった分、自分で仕事を詰め込むことがわかった。真面目なので、浮いた時間を、やりたくてもできていなかった既存の仕事に充てている。新しい事業への移動は、思ったほど進んでいない、と。

4つとも、AIが遅いからではない

4つに共通しているのは、空いた時間を何に使うかを、誰も決めていないことです。

確かめる時間と、回ってくる文書は、慣れと決まりで減ります。AIは答えを出す人ではなく、材料を出す道具だと決めておけば、確かめる時間は「余計な手間」ではなく「自分の仕事」になります。届いた文書も、材料として受け取れば、作り直す時間はもともと自分の仕事です。

「B-18:AIの答えが毎回違って、どれを信じてよいかわからない。AIは壁打ち相手で、決めるのは自分」

積まれる仕事と、自分で広げる仕事は、慣れでは減りません。空いた時間は、放っておくと目の前の仕事で埋まります。上司がいれば上司が埋め、いなければ自分が埋めます。真面目な人ほど、そうなります。

つまり、AIで仕事が増えるのは、道具の欠陥ではありません。取りかかる敷居が下がった結果です。同じ仕組みが、減っている会社では、逆の顔で出ます。おっくうで放置していた仕事が、進むようになる。空いた時間ではなく、止まっていた仕事が動く。増えるか減るかを分けているのは、AIではなく、空いた時間の使い道を決めているかどうかです。

4つ目の「自分で広げる」は、裏返すと「できることが増えた」です。以前なら外に頼んでいた調べものや、手が回らなかった資料づくりに、自分で手が届くようになる。増えた力を何に使うかが決まっていれば、それは会社の力になります。決まっていなければ、目の前の仕事を厚くするだけで終わります。

速くなる会社は、浮いた時間の使い道を先に決めている

先ほどの3,000人のIT企業は、使い道を宣言していました。それでも、時間は既存の仕事に流れました。会長の結論は「まず大胆に人を動かす。その枠組みの中でやろう、という乱暴なリーダーシップが一定必要」でした。

決めるだけでは足りず、動かすところまでが社長の仕事です。ここは、中小企業のほうが有利です。3,000人を動かすには枠組みが要りますが、10人なら、社長が自分で席を動かせます。「空いた時間は、これに使う」と決めて、翌週から実際にそうさせる。それができる距離に、社長がいます。

何に使うかは、何のために会社があるかから決まります。理念とAIの関係は、こちらの記事に書きました。

「B-04:経営理念が、まだ言葉になっていない社長へ。AIに教えるものが無いと、答えはどこの会社とも同じになる」

先ほどの日本の会社員の調査には、同じ向きの数字もあります。同じようにAIを使っていても、「決める」「確かめる」「蓄える」といった力の高い人は、低い人に比べて、仕事のやり方の見直しや成果の向上で3倍以上の差が出ていました。使う量ではなく、使い道を決めているか、出てきたものを確かめているか、学んだことを残しているかの差です。決まりを書いて残す段階の話は、こちらの記事にあります。

「B-37:経営理念を、AIに教えていますか? ひとりで使っていても、社員に広げても、次にやることは同じ」

中小企業の調査で、導入した会社の課題として多かったのは「社内のルール・方針の整備が追い付かない」でした。ルールが要るのではありません。何に使うかが決まっていれば、ルールは短くて済みます。

社長がやること

  • 浮いた時間と増えた力の使い道を、先に決める。「AIで浮いた時間と、新しくできるようになったことは、これに使う」を1行で書きます。何のために会社があるかから決めます。
  • 確かめ方を決める。AIが出したものは材料で、判断は人がする。社内でそう決めておけば、確かめる時間は余計な手間ではなくなります。
  • 決めたら、実行する。宣言で終わらせず、翌週から実際に時間をそちらへ回します。月に1回、「何が変わったか」だけを聞きます。

月に1回、何を聞けばよいかは、こちらの記事にまとめました。

「B-44:AIで何が変わったか、わからない社長へ。時間では測れない。月に1回、聞くだけ」

任せてよいことと、社長にしか決められないことの線は、こちらの記事にあります。

「B-41:AIの導入を担当者に任せた社長へ。任せてよいことと、社長にしか決められない4つ」

筆者の余談

私も、仕事が増えないように注意しています

私は、苦手だった役所の書類と、調べものにAIを使っています。

先日、起業家の方の相談で、ライバルになりそうな会社を約50社、AIと一緒に調べました。わかるのはネットに載っていることだけですが、以前の私なら約1週間かけていた作業が、約10分で済みました。うれしかったのは、速さではありません。相談のその場で、答えを出せるようになったことです。持ち帰って1週間後に返すのではなく、目の前で一緒に見られる。できることが増えた、とはこういうことだと思います。

ただ、気をつけないと、調べすぎてしまいます。深く調べられるようになったので、調べものそのものが延びるのです。以前なら「この辺でいいか」と切り上げていたところを、もう少し、もう少しと進めたくなる。本文の4つで言えば、自分で広げてしまう、に当たります。

そうならずに済んでいるのは、今年やることを、先に書き出してあるからです。調べものが延びても、それが今年やることの中にあるなら、延びてかまいません。外れているなら、切り上げます。

AIを使い始めた方に、私から言えることがあるとすれば、これです。調べすぎに注意! AIは、いくらでも付き合ってくれます。手が止まらなくなったら、何を作るために調べているのか、目的や成果物を思い出すと良いでしょう。

この記事のまとめ

コレだけ!1分で復習
  • AIを使っている中小企業の約7割は、まだ変わっていません
  • 仕事が増える理由は4つ。確かめる/回ってくる/積まれる/自分で広げる
  • どれもAIの欠陥ではなく、空いた時間の使い道を決めていない結果です
  • 速くなる会社は、浮いた時間と増えた力の使い道を先に決めて、社長が実行しています
  • AIの出したものは材料、判断は人。そう決めれば確かめる時間は仕事になります
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小田朋和
有限会社イオアート 代表取締役・中小企業のIT経営専門家
人情の街として知られる東京都葛飾区を拠点に創業25年以上。中小企業経営者のIT経営をサポート。「売り込まない・正直に・わかりやすく」をモットーに、経営者の隣でITを経営の力に変えるお手伝いをしています。行政機関・経営者団体・高校からの講師依頼も多く、社長より「先生」と呼ばれることの多い25年でした。
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