B-21:社長だけがAIを使っている会社へ。社員に広げるのは、ルールではなく、一緒に試すところから

AIを社員に広げるのに、先に要るのはルールではありません。

社長は使えるようになった。次は社員に。そのときの順番を、線・試す場・評価・社長の姿の順にお伝えします。

目次

社長だけがAIを使っている会社は、広げ方で止まっている

社長は、ひととおり使えるようになった。調べものも、文章の下書きも、AIに頼むのが当たり前になってきた。ところが社内を見ると、使っているのは自分だけです。

「使いなさい」と言ってはみた。広がりません。一部の社員だけが使い始めて、使う人と使わない人の差が開いていく。そういう会社も多いと思います。

ここで多くの社長が、まずルールを作ろうとします。何を入れてはいけないか、どこまで使ってよいか。決めること自体は正しいのですが、ルールができても、広がりはしません。順番が少し違うのです。

AIに入れない情報の線は先に引く。ただし、ルールで広がりはしない

先に引いておく線は、あります。入れてはいけない情報です。お客様の個人情報、社員の給与や評価、発表前の商品の情報。ここは社員の判断に任せられないので、使う前に決めておきます。線の引き方は「B-39:生成AIに個人情報を入れてよいか。範囲は、あとから広げられます」と「B-19:AIに情報を入れるのが心配な社長へ。線は「社外に漏れても困らないか」で引く」にあります。

ただし、書き方には気をつけてください。禁止事項の羅列になると、社員は萎縮します。「ここまでは自由に使っていい」という範囲を示すのが目的で、A4一枚あれば足ります。完璧なルールより、まず一枚あることです。

そして、ここからが本題です。ルールが書いているのは「やってはいけないこと」です。「使ってみよう」という気持ちは、ルールからは生まれません。線を引いたら、次にやることは別にあります。

最初の壁は、AIの答えが毎回違うこと

社員がAIを使い始めると、必ずこういう声が上がります。「同じことを頼んだのに、毎回違う答えが返ってくる」「どれが正しいのかわからない」。

これはAIの設計上の性質です。同じ指示でも毎回少しずつ違う答えを返すように、わざと作られています。指示が完璧でも、毎回まったく同じにはなりません。

AIとは、そういう道具です。100点の唯一の答えを出す装置ではなく、90点の異なった回答を複数出してくれる装置です。複数の答えを並べて、良いところを人が選んでつなぎ合わせる。それは失敗ではなく、この道具の普通の使い方です。決めるのは人、という話は「B-18:AIの答えが毎回違って、どれを信じてよいかわからない。AIは壁打ち相手で、決めるのは自分」でお伝えしています。

この性質を社長が先に知っていると、社員から声が上がったときに「そういう道具だ」と返せます。ここで「使い方が悪い」と返してしまうと、社員は使わなくなります。

AIの使い方は、教えるより一緒に試す

使い方を研修として教えようとすると、たいていうまくいきません。AIは正解が決まっていない道具で、試しながら覚えていくものだからです。

効くのは、業務の中で一緒に試す場です。「今日の議事録、AIで整理してみよう」「この提案書の下書き、AIに頼んでみてどうだった?」。小さな体験を積み重ねると、社員は自分で試すようになります。

「B-20:うちの会社では、AIで何ができるのか。業種ではなく、業務で探す」でお伝えした事務スタッフの話を思い出してください。「IT担当者を頼ることが少なくなり、自分で調べて解決するようになった」。道具の話ではなく、人の成長の話です。

わからないことがあれば辞書を引け、と言われた時代がありました。次は、ネットで検索しなさい。いまは、AIに聞いてください。道具は変わりましたが、自分で調べて解決できる社員が強いことは変わっていません。

AIを使いこなすことが目標ではありません。わからないことを自分で解決しようとする姿勢を社員が持つこと。それが目標で、AIはそのきっかけになります。

評価するのは、AIを使ったかではなく、何が変わったか

社員のAI活用を評価しようとすると、「どれだけ使ったか」を指標にしたくなります。これは落とし穴です。活用度を指標にすると、社員は「AIを使った実績を作ること」が目的になります。本来の目的は、仕事の質と速さを上げることです。

見るのは、使ったかどうかではなく、何が変わったかです。時間、仕上がり、人に聞く前に自分で解決したか。その変化を社員と一緒に確かめていくことが、AI活用を社内に根付かせます。何を、どう聞けばよいかは「B-44:AIで何が変わったか、わからない社長へ。時間では測れない。月に1回、聞くだけ」に整理しました。

社長がAIを使う姿が、そのまま教育になる

ある打ち合わせで、LP(ランディングページ)という言葉が出ました。説明が始まる前に、その社長はスマートフォンを取り出し、声でAIに「ランディングページって何?」と聞きました。

わからない言葉が出たら、その場でAIに声で聞く。説明を待つのではなく、自分で調べる。いまの経営者のAIとの付き合い方は、こういう形になってきています。

社員に「AIを使いなさい」と言葉で伝えるより、社長がこういう姿を日常的に見せることのほうが、ずっと伝わります。会議中に調べる、打ち合わせの場で試す、「AIにこう聞いたら面白い答えが返ってきた」と話す。社長の背中が、社内のAI活用を作ります。

AIが広がったら、次はそろわなくなる

社員に広がると、次の問題が出ます。出てくるものが、社員ごとにそろわない。ある社員の文章は堅く、別の社員の案内はくだけすぎている。原因はルールの不足ではなく、会社の考え方をAIに教えていないことです。その話は「B-37:経営理念を、AIに教えていますか? ひとりで使っていても、社員に広げても、次にやることは同じ」でお伝えしています。

教える会社の考え方が、まだ言葉になっていないなら「B-04:経営理念が、まだ言葉になっていない社長へ。AIに教えるものが無いと、答えはどこの会社とも同じになる」から始めてください。

筆者の余談

赤ペン片手に、つなぎ合わせた

AIで文章を直してもらう度に内容が少しずつ変わってしまい、結局すべて印刷して、複数の出力を赤ペン片手につなぎ合わせて直したことがあります。「指示の出し方が悪かったのか」と思いました。それだけではありませんでした。

いまは、これが失敗だったとは思っていません。複数の答えを並べて、人が良いところを選ぶ。AIとの付き合い方の原型は、あのときの机の上にありました。社員にAIを広げるときも、この形をそのまま見せています。

この記事のまとめ

コレだけ!1分で復習
  • 先に引くのは、入れてはいけない情報の線だけ。ルールで広がりはしません
  • 答えが毎回違うのは道具の性質。決めるのは人です
  • 教えるより、一緒に試す。目標は、自分で解決しようとする姿勢です
  • 評価するのは活用度ではなく、何が変わったかです
  • 社長が使う姿が教育になります。広がったら、次は判断の基準を教える番です
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小田朋和
有限会社イオアート 代表取締役・中小企業のIT経営専門家
人情の街として知られる東京都葛飾区を拠点に創業25年以上。中小企業経営者のIT経営をサポート。「売り込まない・正直に・わかりやすく」をモットーに、経営者の隣でITを経営の力に変えるお手伝いをしています。行政機関・経営者団体・高校からの講師依頼も多く、社長より「先生」と呼ばれることの多い25年でした。
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