B-36:IT担当者に、もう手順を覚えてもらわなくていい —AIに渡せる操作と、人に残る言葉の線引き

手順を覚える人から、指示を出す人へ。

IT担当者に覚えてもらうことが、増え続けていませんか。画面の手順のほうは、AIに持たせられるようになりました。覚えなくていいことと、知っておいてもらうことの線引きをお伝えします。

目次

「覚えてもらう」が、追いつかなくなった

担当者を決めて、研修も受けてもらった。ところが半年後に同じ画面を開くと、ボタンの場所が変わっている。クラウドの管理画面は、告知もないまま作り替えられます。パソコンの設定画面も、大きな更新の度に項目が動きます。

覚えたことが、覚えた端から古くなる。これは担当者の能力の話ではありません。覚える対象のほうが、動き続けているのです。

ここに、この2年ほどで変わったことがあります。その「覚える」の部分を、AIに持たせられるようになりました。画面を見せて、やりたいことを言葉で伝えれば、手順は機械が組み立ててくれます。

では、担当者に残る仕事は何か。そして、それでも知っておいてもらわないと困ることは何か。順に見ていきます。

なお、社内にIT担当がいない場合の選び方(外注・自社育成・伴走支援)は「B-30:社内にIT担当がいない —外注・自社育成・伴走支援、どれが自社に合うか」でお伝えしています。ここでお話しするのは、そのうち自社で育てると決めたときの、中身が変わったという話です。

手順は渡せる。「なぜ」は渡せない

この線引きは、AIが出てくる前から社内にありました。担当者が代わるときの引き継ぎです。

まず引き継ぐのは、操作の手順です。どの画面から入って、どこを直せば何が変わるか。手順書にまとめておけば、次の人にそのまま渡せます。

けれど、手順書だけでは渡せないものがあります。「なぜ、この設定にしたのか」「なぜ、この項目だけ残したのか」。どれも、その場その場で理由があって、いまの形になっています。理由を知らないまま引き継ぐと、手順どおりに操作はできても、判断に迷ったときの基準がありません。気づかないうちに、少しずつ会社らしさがぶれていきます。

渡す相手がAIに変わっても、この線は動きません。手順書が引き継ぐのは「やり方」までです。AIが受け取れるのも、そこまでです。では「なぜ」を引き継ぐものは何か。それは後ほどお話しします。

それでも、知っておいてもらうこと

ここまで読んで、「では専門用語も覚えなくていいのか」と思われたかもしれません。そこは違います。

覚えることと、知っていることは別です。覚えるというのは、手順を思い出して再現できること。知っているというのは、何が起きているかがわかって、言葉が通じること。渡せるのは前者で、後者は人に残ります。

線引きは、この問いで決まります。

それを知らないと、AIに何を頼めばいいか言えませんか

言えなくなるなら、知っておく。頼んだあとに機械が動く部分なら、覚えなくていい。

たとえば「共有フォルダのアクセス権」という言葉を知らなければ、頼めるのは「あの人だけ見られないようにしたい」までです。それで通じることもありますが、通じなかったとき、次の頼み方が出てきません。言葉は、頼むための道具です。

知っておいてもらう理由は、もう一つあります。返ってきた答えが違っていても、気づけない。AIは、確からしい形で誤りを返すことがあります。そこで立ち止まれるのは、言葉を持っている人だけです。この話は「B-18:AIは「壁打ち相手」であって、答えを出す人間は自分だ —複数AIに同じ質問をして気づいたこと」で詳しくお伝えしています。

覚えてもらう用語の一覧は、作らないでください

何を知っておくべきかは、会社によって違います。使っているソフトも、困っている場所も違うからです。しかもこの分野の言葉は動くので、表にした日から古くなり始めます。

担当者がAIに頼もうとして言葉に詰まった場面を、その度に書き留めてください。それが、その会社の一覧になります。

担当者の3つの仕事は、こう動く

以前、IT担当の仕事を3つに絞る話をお伝えしました(「B-31:「IT、任せておいて」と言える社員を育てるには —中小企業のIT担当者、最初の3か月でやること」)。日常のトラブル一次対応、ソフト・機器の管理と記録、社内のIT窓口。この3つが、AIが入るとどう動くかを見ていきます。

日常のトラブル一次対応

すべて自分で解決する必要はなく、状況を確認して外部に正確に伝えるだけでも価値がある、とお伝えしました。その「正確に伝える」が、そのまま効きます。伝える相手が増えただけです。

ソフト・機器の管理と記録

台帳は、人が持ち続けます。何台あるかを数えるのは機械にもできますが、どれを会社の資産として管理するかは判断です。トラブルの記録も同じで、書き留める習慣は人の側にあります。

社内のIT窓口

ここは増えます。社員がそれぞれAIを使い始めると、「これは入れていい情報か」という問い合わせが出てきます。ルールを決めるのは人です。この話は「B-21:社員がAIを使い始めたら、社長は何をすべきか? —ルール・評価・教育、現場導入後にやるべきこと」で扱っています。

3つとも、無くなっていません。中身が、作業から判断へ寄っただけです。

指示を出す側に回ると、何が要るか

管理職の仕事に近づきます。求められるのは、その仕事が会社の中でどんな役割を持つのかを、言えることです。

たとえば「請求書を早く出したい」。この目的が資金繰りを楽にすることなのか、お客様の締め日に間に合わせることなのかで、頼む中身が変わります。前者なら入金までの日数を縮める話になり、後者なら締め日の前に確実に届く仕組みの話になります。同じ「早く」でも、行き先が違います。

行き先を言えないまま頼むと、AIは頼まれたとおりのものを返します。速いだけに、違う方向へ速く進みます。

これは手順より難しく、そして古びません。画面は変わりますが、その仕事が何のためにあるかは、そう変わらないからです。

役割を決める物差しは、どこにあるか

では、その「何のため」は誰が決めるのか。

判断が分かれる場面は、必ず出てきます。速さを取るか、確実さを取るか。費用を抑えるか、手間を減らすか。担当者が毎回社長に聞きに来るようでは、社長の手はいつまでも離れません。

物差しになるのが、経営理念です。何のためにこの商売をしているのか。その答えが言葉になっていれば、担当者は同じ軸で判断を続けられます。先ほど後回しにした「なぜ」を引き継ぐのも、これです。

立派な標語である必要はありません。一度作ったら終わりでもなく、お客様や社会の変化に合わせて書き換えていくものです。

AIに何かを頼むときも、順番は同じです。まず何のためかを渡し、そのうえで、いまは何を優先するかを伝える。手順の話は、そのあとに来ます。この関係は「B-04:AIを使いこなせる会社と、そうでない会社の違いは何か? —経営理念とAI活用の意外な関係」で詳しくお伝えしています。

渡したあとに何が起きるかは「B-37:社内でAIの使い方がそろわない本当の理由は、利用ルールではありません」でお伝えしています。社員がそれぞれ使い始めると、渡したものがそろっているかどうかが表に出てきます。

社長がやること

以前、社長が担当者に渡すものとして、権限と予算、そして逃げ道を挙げました。AIが入ると、ここに足すものがあります。

社長が渡す3つ
  • 範囲:どこまでを担当者の判断で決めてよいか。ここは以前と変わりません。
  • 物差し:迷ったときに何を基準にするか。これが言葉になっているかどうかで、担当者の動ける幅が変わります。
  • 「覚えなくていい」という許し:詳しくないといけない、というプレッシャーが担当者を追い詰めます。覚える仕事は減った、と社長の側から言ってあげてください。

担当者に必要なのは、詳しさではありません。会社が何を大事にしているかを知っていて、それを言葉にして人にも機械にも伝えられること。そこを育てるのが、これからの社内IT担当の育成です。

筆者の余談

会議の席に、AIが並ぶようになりました

1年ほど前、あるホームページの企画で、社長さんとスタッフさんと私の3人でパソコンの前に並び、AIに相談しながら進めたことがあります。あのときは、人間3人でAIに頼んでいました。

いまは、少し違います。社内会議に呼ばれていくと、経営陣と、私と、ほかの外部スタッフがいて、そこにAIがいる。頼む相手というより、席にいる、という感じに近づいてきました。

そうなると、会議で話す中身も変わります。手順の話は、その場で聞けば済んでしまう。残るのは「それはうちがやるべき仕事なのか」「やるとしたら、何を先にするのか」という話です。

私が呼ばれる理由も変わってきました。以前は、操作を教えに行くことが多かった。いまは、決めるための材料を並べに行くことが増えています。25年この仕事をしてきて、担当者に覚えてもらうことを増やし続けた時代が、そろそろ変わろうとしているのを感じます。

当社では、社内のIT担当者向けの研修もお引き受けしています。操作の手順をお教えする形から、AIに何をどう頼むかを一緒に決めていく形へ、中身が変わってきました。何から手を付ければいいかわからない、という段階からで構いません。

この記事のまとめ

コレだけ!1分で復習
  • 画面の手順はAIに持たせられる。覚え直しを追いかけ続ける必要はない
  • 渡せるのは「やり方」まで。「なぜそうしたのか」は人に残る
  • 専門用語は知っておく。知らないと何を頼めばいいか言えず、誤った答えにも気づけない
  • 担当者の3つの仕事は無くならない。中身が作業から判断へ寄る
  • 迷ったときの物差しは経営理念。社長が渡すのは、範囲と物差しと「覚えなくていい」という許し
姉妹サイトのご案内

社内のITが整ってきたら、次は「外向き」です。ホームページで売上をつくる話は、姉妹サイト「中小企業経営者向けホームページ活用セミナー」にまとめています。

小田朋和
有限会社イオアート 代表取締役・IT経営コンサルタント
人情の街として知られる東京都葛飾区を拠点に創業25年以上。中小企業経営者のIT経営をサポート。「売り込まない・正直に・わかりやすく」をモットーに、経営者の隣でITを経営の力に変えるお手伝いをしています。行政機関・経営者団体・大学・高校からの講師依頼も多く、社長より「先生」と呼ばれることの多い25年でした。
まず現状を聞かせてください

「うちはどこから手をつければいい?」
それを一緒に整理するところから始めます

ツールを売り込んだり、いきなり大きな提案をしたりはしません。まず御社の今の状況をうかがって、何が問題で、何から始めるべきかを一緒に考えます。葛飾区で25年以上、経営者の隣でITを見てきたからこそできる、現場に寄り添った相談です。

※葛飾区周辺(足立区・江戸川区・三郷市・八潮市・松戸市など)へは、初回訪問時の出張料も無料です。それ以外の地域も対応しています。その場合は、交通費の実費だけご負担ください。

  • URLをコピーしました!
目次