B-30:社内にIT担当がいない —外注・自社育成・伴走支援、どれが自社に合うか
ITは、外注・自社育成・伴走支援?
「IT担当がいない」会社で空いているのは、多くの場合トラブル対応だけ。3つの選択肢の現実と、自社に合う選び方をお伝えします。
「うちはIT担当がいないので…」
こう言う社長に、もう少し聞いてみると、こんな答えが返ってくることがよくあります。
「経理の○○さんが、Excelとか請求書ソフトは使いこなしてますよ」
「ホームページの更新は、前に研修を受けた社員がやってます」
「写真撮影や文章は、担当の子がなんとかやってくれてます」
実はこれ、「IT担当がいない」とは少し違います。事務まわりのITは、1~2名のスタッフがすでにかなりの部分を回してくれています。ホームページの更新や写真・文章まわりも、研修を受ければ対応できるケースが多い。
では何が「いない」のか。
パソコンが突然動かなくなったとき。社内のネットワークがつながらなくなったとき。ソフトが起動しなくなったとき。
このときに、「とりあえず見てみます」と動ける人が、社内にいない。それが、多くの中小企業における「IT担当がいない」の正体です。
空いている席がトラブル対応だけなら、最初から「外注か、育成か」を決めなくてかまいません。見ておくのは、トラブルがどのくらいの頻度で起きているかと、対応を任せられる社員に余力があるか。この2つで、合う形はおおよそ決まります。
3つの選択肢には、それぞれ向き不向きがある
① 外注(IT会社・フリーランス)に任せる
困ったときに呼べるIT会社を1社確保しておく方法です。トラブル対応から機器の選定・設定まで、外部のプロに委託します。
トラブルの頻度が低い・社員の余力がない・とにかく早く体制を作りたい会社。
現実のメリット:専門知識があるプロに任せられる。緊急時の対応が速い。自社で知識を持たなくても回せる。
現実の注意点:業者の質によって大きく差が出ます。「呼ばれたときだけ直す」業者と「御社の状況を把握して先回りしてくれる」業者では、5年後の会社のIT環境がまったく変わります。また、何でも外注に頼りきると、自社の中で判断できる人が育たず、業者に言われるままになってしまいます。
費用の払い方は、スポット(呼んだときだけ)と月額の保守契約の2通りがあります。月額にしたほうが安く済む会社もあれば、スポットのほうが安い会社もあります。どちらが合うかは、試してみないとわかりません。実際に試して戻した例を、最後の余談に書きました。
② 社員に兼務・育成させる
「PCに詳しそうな○○さんに、トラブル対応も兼ねてもらう」という方法です。
ただし、ここで注意が必要です。事務スタッフがExcelや請求書ソフトを使いこなしているのと、PCトラブルに対応できるのは、別のスキルです。「なんとなく詳しそう」という理由だけで任せると、本人も会社も困ることになります。
IT業務がある程度定型化できる・本人がIT対応に前向きである・育てる時間と余裕がある会社。
現実のメリット:社内に知識が蓄積される。社内の業務を理解した上でIT判断ができる。コストを抑えられる。
現実の注意点:担当範囲を明確にしないと「なんでも屋」になってしまい、本業が圧迫されます。また、「その人が辞めたら全部わからなくなった」という事態も、現場でよく見てきました。何をどこまで担当させるか、最初に決めておくことが重要です。
📌 トラブル記録をつけておきましょう
トラブルが起きたときは必ず記録を残すことをお勧めします。日付・誰が・どんな症状で・どう対応したか。メモ帳でも表でもかまいません。この記録が積み重なると、「うちでよく起きるトラブル」のパターンが見えてきて、次の担当者への引き継ぎにもなります。
社員を育てるなら、候補は数名から
育てる場合は、最初から1人に決めず、数名の候補に研修を受けてもらうのが現実的です。人には向き・不向きがあるので、やってみて得意そうな人に任せたほうが続きます。
研修の中身は、Word・Excel、会計ソフト、Canvaなどのデザインソフト、ホームページやSNSの更新など、その会社の業務に合わせて組み立てます。教科書を渡して終わりにすると、一般的な技術は身についても、自社の仕事には合わないことが多いからです。
育て方の具体的な進め方は、次の記事「B-31:「IT、任せておいて」と言える社員を育てるには —中小企業のIT担当者、最初の3か月でやること」でお伝えします。
③ 伴走支援(顧問型)を活用する
外注とも社員育成とも違う、第三の選択肢です。IT会社や支援者が「外部のIT顧問」として継続的に関わり、トラブル対応だけでなく、IT全体の方向性を一緒に考え続けるスタイルです。
ITの判断を相談できる相手を外に持ちたい・社内担当を育てながら外部もうまく使いたい・IT投資の意思決定に自信が持てない会社。
現実のメリット:特定の製品を売り込む立場にない人と、IT全体の方向性を一緒に考えられる。月ごとに状況を共有しながら進めるので、「気づいたらシステムが古くなっていた」という事態を防ぎやすい。
現実の注意点:伴走してくれる業者・支援者を見つけること自体が難しい。「ちゃんと現場を見にきてくれるか」「売り込みより相談が先か」を見極める必要があります。
選び方は、トラブルの頻度と社員の余力で決まる
「トラブルの頻度」とは、PCや機器・ソフトのトラブルがどのくらいの頻度で起きているかです。月に1回あるかないかの会社と、週に何度も対応が必要な会社では、必要な体制がまったく違います。
「社員の余力」とは、IT対応を兼務させられる社員が社内にいるか、本業への影響を抑えながら担当業務を持たせられるかです。
この2つを並べると、おおよその方向が見えてきます。
スポット外注で十分。1社確保しておくだけで大きく変わる。
社員育成+外注の組み合わせが現実的。
伴走支援型の関与を検討する価値あり。
今のうちから社員育成と伴走支援を並行して進める。
どの選択肢も「これ一択」である必要はなく、組み合わせが実態に合っていることが多いです。外注を使いながら社内担当も育てる、伴走支援者に相談しながら外注業者も使う。そういった形が現場ではよく機能しています。
迷ったら、いま何に困っているかから始めてください。トラブル対応なのか、IT全体を相談できる相手がいないのか。困りごとの種類によって、合う選択肢は変わります。
次の記事「B-31:「IT、任せておいて」と言える社員を育てるには —中小企業のIT担当者、最初の3か月でやること」では、「社員にIT対応を兼務させる」と決めた場合に、最初の3か月で何をやらせればいいかを具体的にお伝えします。
筆者の余談
初めてお会いした社長に「IT担当は?」と聞くと、「強いて言えば私ですかね」と苦笑されることがよくあります。社長が自分でルーターを再起動して、自分でパスワードを管理して、自分でソフトのライセンスを更新して・・・。気づいたら5年経っていた、という会社は珍しくありません。
私が最初にすることは、「現場を見せてもらうこと」です。何台のPCがあって、どんなソフトを使っていて、バックアップはどうなっているか。メモ帳を持って一通り歩くと、「困っていること」より先に「本人が困っていると気づいていないこと」が見えてきます。
現場を歩きながら、お願いしていることがあります。トラブルの記録をつけてください、と。日付と、誰が、どう対応したか。それだけでいい。半年も続けると、「この会社はネットワーク系のトラブルが多い」「特定のPCだけ不具合が多い」といったことが見えてきます。記録は、次の一手を決める地図になります。
費用の払い方も、決めつけないようにしています。私から月額固定をお勧めすることはありませんが、頼まれれば試します。以前、あるお客様で、月額数万円の固定を半年ほど続けたことがあります。記録を見返すと、呼ばれた回数に対して、いただいている額が多すぎました。そこで私のほうから、スポットに戻しましょうとお伝えしました。
いっときの売上は減ります。それでも、払いすぎだとわかっている契約を続けるより、そのほうが長くお付き合いできる。そう考えて、25年以上やってきました。
この記事のまとめ
- 「IT担当がいない」会社で空いているのは、多くの場合トラブル対応の席だけ
- 選択肢は「外注」「社員育成」「伴走支援」の3つと、その組み合わせ
- 選ぶときに見るのは「トラブルの頻度」と「社員の余力」
- 社員を育てるなら、候補は数名から。やってみて向いた人に任せる
- 月額固定かスポットかは、試してみて、払いすぎなら戻せばいい