B-26:IT導入を「失敗」と感じる会社に共通していること —現場に定着しないシステムの典型パターンと対策
IT導入が失敗する原因は?
IT導入が「失敗だった」と感じる会社には、共通したパターンがあります。現場で繰り返し見てきた3つの典型と、立て直しのヒントをお伝えします。
前回の記事(B-25:全社のITをゼロから整えた実例 —工場・売上・会計・給与管理をどうつないだか)では、全社ITをゼロから整えた成功事例をご紹介しました。今回はその裏側 「システムを入れたのに、うまくいかなかった」会社に共通していることを正直にお伝えします。
IT導入の失敗は、ITの問題ではないことがほとんどです。高価なシステムを入れても、現場に定着しなければ意味がありません。そして定着しない原因は、たいてい導入前の段階にあります。
「システムを入れたのに、誰も使っていない」なぜ起きるのか
IT導入の相談を受けるとき、「以前に別の業者に頼んだシステムがあるんですが、誰も使っていなくて……」という話をよく聞きます。導入にかけたコストは数百万円、しかし現場では以前と同じExcelと紙が動いている。
なぜこうなるのか。原因を突き詰めると、ほぼ例外なく以下の3つのどれかに行き着きます。
- 業務を整理しないまま、システムを入れた
- 社長が「ITはわからない」と関わらなかった
- 社長がITに詳しすぎて、社員がついてこれなかった
失敗パターン①:最初から機能を詰め込みすぎる
「どうせ作るなら全部入れてしまいたい」この気持ちはよくわかります。受注管理も在庫管理も給与計算も、一度に全部解決したい。しかし、最初から機能を詰め込みすぎたシステムは、ほぼ確実に現場に定着しません。
理由は単純で、覚えることが多すぎるからです。新しいシステムに慣れるだけでも現場には負担がかかります。そこに大量の機能が一度に降ってくると、社員は「触ると何かが壊れそう」「どこから手をつければいいかわからない」という状態になります。
📌 基本から段階的に拡張する
まず「これだけは絶対に必要」という機能に絞って導入し、現場が慣れてきたところで少しずつ拡張していく。機能は後から追加できます。最初に全部入れる必要はありません。
失敗パターン②:社長が「ITはわからない」と関わらない
「ITのことは担当者に任せています」「私はよくわからないので」こうおっしゃる社長のもとで進めるIT導入は、途中で必ず判断が止まります。
システムの設計には、経営の判断が必要な場面が何度も出てきます。「この業務はどちらを優先しますか」「このデータは誰が入力しますか」「ここは自動化しますか、手動にしますか」これらは技術の話ではなく、経営の話です。社長が関わらないと、担当者が判断できずに設計が止まるか、誤った方向に進んでしまいます。
社長がITの技術を理解する必要はありません。ただ、自社の業務と経営の方向性を約8割把握した状態で関わることが、IT導入を成功させる最低条件です。
失敗パターン③:社長がITに詳しすぎて、社員がついてこれなかった
逆のパターンもあります。社長がプログラムを書けるほどITに詳しく、ご自身でどんどんシステムに手を加えていくケースです。一見、頼もしいように見えますが、これが深刻な問題を引き起こすことがあります。
あるお客様では、社長が私も社員さんも知らない間に機能を追加し続けた結果、気づいたら画面にボタンが溢れ、マニュアルのないまま機能だけが増え続けていました。画面のデザインもものすごいことになっていて、どのボタンが何の機能なのか、社長本人以外は誰もわからない状態になっていました。
社員さんは「触ると何かが壊れそうで怖い」とおっしゃっていました。これは紙の仕事における「属人化」と同じ構造です。社長の頭の中だけにある仕様でシステムが育っていくと、社長が不在になった瞬間に誰も触れなくなります。デジタルになっているぶん、紙の属人化より始末が悪い。
結局、私と一緒にボタンを1つずつ整理しながら再開発することになりました。技術力がある社長ほど、「自分でできてしまう」ことが落とし穴になります。
📌 全社で確認しながら、一歩ずつ
設計や開発の計画は、社長・現場責任者・実際に使うスタッフ全員で確認しながら進めることが大切です。社長一人が先走っても、社員がついてこなければシステムは機能しません。
失敗したシステムを「立て直す」ときにやること
すでに「使われていないシステム」がある場合、どこから手をつければよいのでしょうか。私が立て直しを依頼されたときに最初にやることは、前回の記事(B-25:全社のITをゼロから整えた実例 —工場・売上・会計・給与管理をどうつないだか)でお伝えした初回訪問と同じです。まず現場を歩いて、「実際に何が使われていて、何が使われていないか」を自分の目で確認します。
「使いにくい」「意味がわからない」「前の方が早かった」現場の声の中に、本当の原因があります。導入した側ではなく、使う側の言葉が立て直しの出発点です。
詰め込みすぎたシステムは、まず引き算から始めます。「本当に必要な機能だけ残す」という作業は、追加より難しいですが、定着への近道です。
定着したかどうかは、導入直後ではなく数カ月後の現場でわかります。不満が出ても、すぐに諦めないことが大切です。
システムを入れた直後、現場スタッフの一部から不満の声が上がることがあります。「前のやり方の方が早かった」正直、こういう声はこたえます。
ただ、私は数カ月後に必ずお邪魔するようにしています。あるお客様の現場を訪ねたとき、最初に不満を言っていたスタッフの方から「このボタン、ここに移動してもらえますか」「こういう集計機能をつけてほしいんですけど」と声をかけてもらいました。
正直、うれしかったです。改善要望が出るということは、毎日使い込んでいる証拠です。「使われていないシステム」には、要望は出ません。定着したかどうかは、数カ月後の現場の空気でわかります。
この記事のまとめ
- 「誰も使っていないシステム」の原因は、たいてい導入前の段階にある
- 最初から機能を詰め込みすぎると、現場が混乱して定着しない。基本機能から段階的に拡張する
- 社長が関わらないと、設計の判断ができずに方向を誤る。技術の理解は不要だが、経営の把握は必要
- 社長がITに詳しすぎる場合も危険。マニュアルなしで機能を増やし続けると属人化する
- 立て直しは「引き算」から。使われていない理由を現場スタッフに直接聞くことが出発点
- 定着したかどうかは、数カ月後の現場の空気でわかる