B-07:会社の情報、社員のスマホに入ったままになっていませんか?
中小企業のためのスマホ活用と情報管理の考え方
「退職した社員のスマホに、お客さんのLINEが全部入ってた…」
これ、笑えない実話です。スマホ1台に会社の命運が乗っかっている。中小企業では決して珍しくない状況です。情報を「人のもの」から「会社のもの」に変えるための考え方を、一緒に整理しましょう。
突然ですが、こんな経験はありませんか?
「担当者が突然辞めたら、お客さんとのやりとりが全部その人のスマホに入っていた」「LINEのグループ、退職者がいつの間にか管理者になっていた」「Googleドライブで共有していたファイルが、気づいたら見られなくなっていた」。そんな話、実は中小企業の経営者からよく聞きます。
「うちは大丈夫」と思っているかもしれません。でも少し立ち止まって考えてみてください。今この瞬間、社員のスマホに会社の情報がどれだけ入っているか、正確に把握できていますか?
大企業のように専用のIT部門を持てない中小企業ほど、このリスクが「見えにくい形」で蓄積されています。今回は、中小企業が直面しているスマホと情報管理のリアルな課題と、その解決のヒントをお伝えします。
「社員が辞めたら、お客さんのLINEも消えた」あなたの会社、大丈夫ですか?
冒頭に挙げたような話は、決して他人事ではありません。実際に起きた場面を、少し具体的に想像してみましょう。
営業担当が急に辞めた。お客さんとのLINEのやりとり、見積もりの途中経過、商談メモ。すべてが個人スマホの中に。引き継ぎもないまま連絡が取れなくなった。
事故や病気で担当者が突然入院。「パスワードは本人しか知らない」「そのアプリ、個人契約だったみたい」。業務が完全にストップする。
揉めて辞めた社員がLINEグループを退会・削除。悪意がなくてもそうなることはあるし、悪意があればもっと怖い。情報漏えいのリスクも現実になる。
担当が変わって引き継いだはいいが、「前任のスマホにしか入ってない情報がある」状態に。お客さんに「また最初から説明するの?」と言われる気まずさ。
どれも「ITの問題」というより「業務継続の問題」です。スマホは便利なツールです。でも使い方を整理しないと、人が動けなくなったとき、会社も止まるという構造になってしまいます。
中小企業では「人」がシステムになっている
個人スマホ+LINEが「会社のインフラ」になっている現実
少し前のことですが、葛飾区内の建設関連の会社さんからご相談をいただきました。「営業の担当者が急に辞めてしまって、お客さんへの連絡が取れなくなってしまった」という内容でした。詳しく聞いてみると、現場の連絡はすべてその人の個人LINEで回っていて、お客さんの電話番号もスマホの個人アドレス帳にしか入っていなかった。会社として持っている情報が、ほとんどなかったんです。こういった相談、実は一件だけではなく、似たような話を何度もうかがっています。
中小企業では、会社がスマホやタブレットを支給するケースは多くありません。現実的には、社員それぞれの個人スマホに、LINEやGoogleのアプリをインストールして仕事に使っている。これが多くの会社のリアルです。
「Bring Your Own Device(ブリング・ユア・オウン・デバイス)」の略称で、「自分のデバイスを持ち込む」という意味です。社員が個人所有のスマホやPCを業務に使う形態のこと。日本の中小企業では、意図せずBYODになっているケースがほとんどです。
意図的にBYODを選んでいる会社はほとんどなく、「最初からそうなっていた」というケースがほとんどです。LINEは使いやすい、Googleは無料で使える、気づいたら業務の中心になっていた。というのが実態ではないでしょうか。
問題は、そのルールや整理が後回しになっていること。気づいたときには「人がシステム」の状態、つまり「担当者が動けなくなったら業務が止まる」構造ができ上がっています。
本当に怖いのは情報漏えいより「仕事が止まること」
「情報漏えい」という言葉を聞くと、ハッキングや不正アクセスをイメージする方が多いかもしれません。でも中小企業で実際に起きているのは、もっと地味で、でも深刻な問題です。
- お客さんの連絡先が個人LINEにしか入っていなくて、引き継ぎができない
- 「あのファイル、どこに保存したっけ?」が社員のGoogleドライブの奥深くに埋まっている
- 退職者のメールアカウントを削除したら、顧客との過去のやりとりも消えてしまった
- 個人スマホが壊れた、なくした。データが全部消えた
- 本人が在宅でスマホを持ち帰っているため、急ぎの対応が誰にもできない
これらは「漏れた」わけではありませんが、会社として使えなくなった情報という意味では同じです。経営者としては、情報漏えいより「仕事が止まること」「お客さんに迷惑をかけること」のほうが、日々のリスクとしてはずっとリアルかもしれません。
「会社支給かどうか」より大切なこと
ここで大事なことをお伝えします。スマホを会社支給にすれば問題が解決する。というわけではありません。もちろん支給端末には管理のしやすさというメリットがありますが、それ以前に考えるべきことがあります。
まず「今どこに何の情報があるか」を見える化しよう
まず取り組んでほしいのは「現状の棚卸し」です。難しく考えなくて大丈夫。下記のような視点で確認するだけで、自社の状況がずいぶん見えてきます。
LINE、Chatwork、Googleドライブ、Slack、Zoom、kintone……社員がどのアプリを業務で使っているか、まずリストアップしてみましょう。把握していないものが出てくることもよくあります。
Googleドライブを使っているとして、それは個人のGmailアカウント? それとも会社のGoogle Workspaceアカウント? アカウントの「所有者」が誰かを確認することが重要です。
各社員について「この人がいなくなったとき、業務に何が起きるか」を考えてみてください。スムーズに引き継げるか、それとも止まってしまうか。
どこまでが会社の情報で、どこからが個人のものか。曖昧なままにせず、ルールとして言語化しておくだけでも大きな前進です。
情報を「人のもの」から「会社のもの」へ
見える化できたら、次のステップは「情報を会社に引き戻すこと」です。これは、社員からスマホを取り上げるとか、個人情報を監視するとか、そういう話ではありません。
📌 考え方のポイント
「お客さんとのやりとり」「業務上のファイル」「会社のサービスのパスワード」。これらはすべて会社の資産です。それが個人のスマホや個人のアカウントで管理されているとしたら、会社の資産が会社の外にある状態です。これを少しずつ「会社の中」に戻していく作業が、情報管理の本質です。
具体的なアクションとしては、たとえばこんなことから始められます。
- LINEの業務グループを「個人アカウント」ではなく「会社用アカウント」に作り直す
- GoogleドライブやOneDriveを会社のアカウントで運用し、社員は共有フォルダに保存するルールにする
- 重要な顧客情報は個人スマホのアドレス帳でなく、会社の顧客管理ツール(CRM)に入力する
- 退職・異動時の「情報の引き継ぎ手順」を事前に文書化しておく
一気にすべてを変える必要はありません。まず一番リスクが高そうな部分から、一つずつ整えていく。それで十分です。
こんな会社は、支給端末の導入を検討するタイミングかもしれない
ここまでの話を踏まえたうえで、「やはり会社支給の端末を導入すべきか」を考える場面もあります。以下に当てはまる項目が多い会社は、本格的な検討の時期かもしれません。
- 社員が10名を超えており、情報管理のルールがまだ整っていない
- 顧客情報や商談内容を個人スマホのLINEで管理している社員がいる
- 過去に「担当交代時に情報が引き継がれなかった」経験がある
- 業種的にセキュリティ要件が高い(医療・士業・建設・金融など)
- テレワークや外出先での業務が増えてきた
- 採用が増えており、今後の情報管理の仕組みを先に整えたい
- 社員の個人スマホの機種・OS・アプリがバラバラで管理が煩雑
※3つ以上当てはまる場合は、一度専門家に相談することをおすすめします。
ただし、支給端末を入れたとしても、「どう使うか・何を使うか・ルールをどう決めるか」を整備しないと意味がありません。ハードウェアより先に、運用の仕組みを考えることが大切です。
また費用面も現実的に考える必要があります。スマホの端末代・通信費・MDM(端末管理ツール)の費用……それが本当に今の規模の会社に必要か、費用対効果はどうか。ここはIT専門家と一緒に試算するのが安心です。
この記事のまとめ
- 中小企業では個人スマホの業務利用(BYOD)が当たり前になっているが、ルールが整っていないケースが多い
- 本当のリスクは情報漏えいより「担当者不在で仕事が止まること」
- まず「今どこに何の情報があるか」を見える化することが最初の一歩
- 情報を「人のもの」から「会社のもの」に変えるルール整備が本質
- 支給端末の導入は、ルール・運用の整備とセットで検討する
正直に言うと、イオアートでもお客さまとのやりとりにLINEを使うことがあります。初回のご相談は必ず現場にお伺いして、実際の環境を自分の目で確認するのが私のやり方です。でも2回目以降は、必要に応じてLINEやメッセージも活用しています。
何十年もお付き合いのある慣れたお客さまになると、昔は電話越しに「画面に赤いエラーが出て……」と状況を説明していただいていたのが、最近はLINEやFacebookメッセンジャーでエラー画面の写真をパッと送ってくださるようになりました。これ、お互いにとってすごく助かるんです。
ツールは便利に使えばいい。ただ、「使い方の設計」だけは、最初にきちんとやっておく。それがこの記事でお伝えしたかったことの、いちばんの本音です。