B-03:便利そうだから導入するは危険
業務の整理もできた。あとはツールを選ぶだけ
→その「あとは」が、一番危ない。
ツール選びには「正しい順番」があります。何を・どの順番で確認してから選ぶか。その手順を知っているかどうかで、導入後の現場が大きく変わります。
「そろそろITツールを入れよう」と思ったとき、何から始めますか?
展示会で気になったものを調べる。知り合いの経営者に「何を使っているか」聞いてみる。営業担当者から勧められたものの資料を取り寄せる。よくあるパターンです。
でも、その前に確認してほしいことがあります。社長が持つべき3つの判断軸(B-01)、そして業務の見える化(B-02)。これらが整ったうえで、ようやくツール選びに進む段階です。
では、いざツールを選ぶとき。何を、どの順番で確認すればいいのか。今回はそこをお伝えします。
業務の整理もできた。あとはツールを選ぶだけ →その「あとは」が、一番危ない
業務を整理して、IT化したい箇所も見えてきた。「あとはツールを選ぶだけだ」。この段階で、実は多くの会社が失敗します。
理由は単純です。ツールを選ぶ基準が、「便利そう」「安い」「有名」になってしまうからです。
業務を整理する段階では「うちの課題は何か」を考えていたのに、ツールを選ぶ段階になると突然「このツールは何ができるか」という視点に切り替わってしまう。これが順番の逆転です。
ツールを先に決めると、業務がツールに合わせて歪む
ツールありきで導入を進めると、何が起きるか。現場がツールに合わせて仕事のやり方を変えなければならなくなります。
本来であれば、業務の流れに合ったツールを選ぶはずです。ところが「このツールではこの手順は対応できない」「あの処理はこの画面でやってください」と、現場がツールの都合に振り回される。結果として、ツールを入れる前より仕事が複雑になるということが起きます。
ただし、逆のケースもある →定番ソフトに業務を合わせてうまくいく場合
ただし、逆のケースもあります。
販売管理ソフトや会計ソフトの中には、業界全体で長年使われてきた「定番」と言えるものがあります。多くの会社で使われているということは、それだけ多くの業務パターンに対応できるよう作られているということでもあります。
「うちは独自のやり方があるから」「昔からこのやり方でやっているから」と最初から拒否するのではなく、一度ソフトの基本的な使い方に業務を合わせてみたら、かえってうまくいった。そういう事例を、私は何度も見てきました。
長年の慣習だと思っていた手順が、実は非効率だっただけ。ソフトの基本的な流れに乗ったことで、仕事の手順がシンプルになった。そういうことが起きます。
📌 判断の目安
「業務に合ったツールを選ぶ」が基本ですが、「実績ある定番ソフトの使い方に、業務のやり方を合わせてみる」という選択肢も持っておく。この両方の視点を持っていると、ツール選びの幅が広がります。
「業務に合ったツールを選ぶ」が基本ですが、「実績ある定番ソフトの使い方に、業務のやり方を合わせてみる」という選択肢も持っておく。この両方の視点を持っていると、ツール選びの幅が広がります。
「デモが良かった」「知り合いが使っている」は選ぶ理由にならない
デモ画面が洗練されていて使いやすそうだった。信頼している経営者仲間が導入していて評判が良かった。これらは参考情報としては有益です。ただし、それだけでは選ぶ理由になりません。
他社でうまくいったツールが、自社でもうまくいくとは限りません。業種が同じでも、業務の流れや社員の構成、扱う例外の種類は会社ごとに違います。「どこかで聞いた良い話」ではなく「自社の業務に合っているか」が、判断の軸です。
失敗しない選び方 →ツールを選ぶ前に決める「3つの絞り込み条件」
では、ツールを選ぶ前に何を確認すればいいのか。私が現場でお客さまと一緒に整理している「3つの絞り込み条件」をご紹介します。
「業務を効率化したい」では絞り込めません。「毎月の請求書発行に2日かかっているのを、半日以内にしたい」。このくらい具体的に言えるかどうかです。課題が一行で言えると、ツールを比較するときの軸が決まります。逆に課題が曖昧なままだと、機能が多いツールや見た目が良いツールに引っ張られてしまいます。
どんなに優れたツールも、使う人が使いこなせなければ意味がありません。実際に日常業務でそのツールを操作する社員が、どの程度ITに慣れているかを確認してください。パソコンの操作に不慣れな社員が多い職場に、高機能で操作が複雑なツールを入れても定着しません。「簡単すぎるくらいでちょうどいい」が、現場に定着するツールの条件です。
最初から「完璧なツール」を選ぼうとすると、判断が遅くなります。使い始めてみないとわからないことは、必ずあります。入れる前に「データを書き出せるか」「別のシステムに移せるか」を確認しておくと、いざというときの切り替えがスムーズになります。縛りが強く乗り換えが困難なツールは、合わなかったときのコストが跳ね上がります。
小さく始めて、現場が続けられるものが正解
3つの条件で候補が絞れたら、次は「どう始めるか」です。
ここで大切なのは、最初から全部を解決しようとしないことです。まず一つの業務、一つのチームから始める。うまくいったら広げる。この順番で進めることで、現場への負担を最小限にしながら、ツールを定着させることができます。
また、必ず現場のスタッフが実際に触ってから判断してください。「経営者が良いと思った」だけで導入を決めると、現場から「使いにくい」という声が出たときに修正が効きません。無料デモがあれば、実際に使う社員に操作してもらう。「自分たちで使えそうか」という感覚は、現場にしかわかりません。
「このソフト、どう思いますか?」と聞かれて、言葉に詰まったことがあります。機能は申し分ない。でも、その会社の現場には合わないと感じた。それでも社長がその気になっているときに「合わないと思います」と言うのは、なかなか勇気がいります。
中立な立場でいることの意味は、こういうときに正直に言えるかどうかだと思っています。
私がツールを検討するとき、デモを触る前に必ずやることがあります。それは「解約・乗り換えの手順を調べること」です。データの書き出しができるか、別のシステムに移せる形式か。入れる前に出口を確認する。縛りが強いツールは、合わなかったときのコストが跳ね上がります。「入れやすさ」より「出やすさ」で選ぶ。これが、お客さまに正直に言える根拠にもなっています。
📌 ポイント
「良いツールを選ぶ」より「現場が続けられるツールを選ぶ」。この視点の転換が、導入を成功させるかどうかの分かれ目です。
この記事のまとめ
- 「便利そう」「有名」「知り合いが使っている」は参考情報。判断の軸は「自社の業務に合っているか」だけ
- 定番ソフトに業務のやり方を合わせてみたら、むしろシンプルになったという事例も多い
- ツールを選ぶ前に「解決したい課題を一行で言えるか」「使う人は誰か」「合わなかったときを想定しているか」を確認する
- 最初は一つの業務・一つのチームから小さく始める
- 「良いツール」より「現場が続けられるツール」を選ぶ