B-25:全社のITをゼロから整えた実例 —工場・売上・会計・給与管理をどうつなげたか
全社IT化への道すじ
全社ITをゼロから整えるとき、何をどの順番で進めればよいのか。実際の支援事例をもとに、「つなぎ方の順番」と「経営者に必要な関わり方」を具体的にお伝えします。
「そろそろ社内のITをちゃんと整えたい」。そう思いながら、何から手をつければいいかわからないまま時間が経っている、という経営者の方は少なくありません。
受注はExcel、製造進捗は現場の担当者の頭の中、会計は顧問税理士に任せきり、給与計算は総務が手作業で……。そんな状態でも、会社は毎日なんとか動いています。でも、「なんとか動いている」状態は、ある日突然、限界を迎えます。
今回は、私がこれまで支援してきた製造業の事例をもとに、全社ITをゼロから整えた具体的な流れをご紹介します。「何をつなぐか」ではなく、「何から手をつけるか」。その順番の話です。
いきなり「全部システム化」しようとして、失敗する会社のパターン
IT整備に失敗する会社には、いくつか共通したパターンがあります。私が現場で繰り返し見てきたものを正直にお伝えします。
「なんとなく便利になりそう」「同業他社がやっているから」という動機では、途中で判断が止まります。現場から「これ、何のためにやるんですか?」と聞かれたとき、答えられる社長でないといけません。
「受注も在庫も給与も一気に全部やりたい」という要望はよく聞きます。しかし、一度に多くを変えようとすると、現場が混乱して定着しません。機能は後から追加できます。
「その件は担当者に聞いてください」が続くヒアリングは危険信号です。社長が自社の業務フローを約8割把握していないと、システム設計の判断ができません。
プログラムの技術があっても、その会社の商流や現場の動き方を理解せずに設計されたシステムは、使われなくなります。「作ったけど誰も使っていない」は珍しくありません。
共通しているのは、「IT」を先に考えて、「経営」を後回しにしているという点です。全社ITを整えるとき、最初にやるべきことはシステムの選定ではありません。
私が現場で必ずやること →メモ帳一枚からの現状把握
私が現場を訪問するとき、パソコンは持っていきません。製造現場には危険物もありますし、そもそも画面を見ながら話を聞く姿勢では、現場の空気は読めません。持っていくのはメモ帳と、あとは目と耳だけです。
「IT会社なのに、パソコン持ってこないんですか?」と言われることがあります。
でも、メモ帳だと、手を止めて現場を眺める時間が増えます。ベテランの職人さんが何気なくやっている手順、担当者同士の声の掛け合い、棚の張り紙。そういうものの中に、ボトルネックのヒントが隠れています。25年やってきて、この習慣は変えていません。
現場では、まず「モノと情報がどう流れているか」を自分の目で確認します。受注の連絡はどこに届いて、誰がどう判断して、現場にどう伝わるのか。製品の進捗は誰が把握していて、どうやって確認しているのか。納品・出荷・請求はどうつながっているのか。
📌 現場観察で見ているポイント
「どこで情報が止まるか」「誰かの頭の中だけにある情報はどこか」「全体の流れを止めている工程・作業はどこか(ボトルネック)」この3点が、IT整備の急所を教えてくれます。単に業務をデジタルに移すのではなく、業務の足かせを先に見つけてからシステムを設計する。これがイオアートの現場での基本姿勢です。
このヒアリングと現場観察を終えたあと、初めて「どこからIT化すべきか」の話ができます。現場を見る前にシステムを提案するのは、診察もせずに薬を処方するようなものです。
私の大学での専門は物理と数学でした。(応用物理学科出身)。経営については独立後、図書館に通いながら約3,000冊の本を読んで学びました。
今でも、新しいお客様から仕事を依頼されると、まずその業界を扱った本を読みます。社長へのヒアリングと並行して、業界の商習慣や課題の構造を頭に入れてから現場に臨む。すると「あの本で読んだあの考え方が、ここで使えるかもしれない」という発想が生まれます。
製造業の現場でボトルネックを探すようになったのも、『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著)という本との出会いがきっかけのひとつです。ITの設計図を描く前に、まず経営の流れを読む。物理で培った「全体の構造を俯瞰してから個別の問題を解く」という習慣が、今の仕事のやり方に自然につながっているように思います。製造業の経営改善にご興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。
実例:社員数十名の製造業が、段階的に全社ITを整えた話
ここからは、私が長期にわたって支援した製造業の事例をご紹介します。業種の特定につながる詳細は伏せますが、流れと判断の理由はそのままお伝えします。
第1フェーズ:「誰が何をどこまで把握しているか」を可視化する
最初の状態はこうでした。受注情報は営業担当の手帳とExcelが混在。製造の進捗は現場リーダーが口頭で管理。社長が「あの案件、今どこまで進んでる?」と聞くたびに、誰かが工場を走り回って確認していました。
第1フェーズでやったのは、システムを入れることではありません。「誰が何の情報を持っていて、どう動いているか」を図に起こすことでした。業務フローを整理するだけで、「ここで情報が止まっている」「この確認作業、実は二重になっている」という問題が次々と見えてきました。実際にこの会社では、業務を整理した段階で二重入力になっている作業が3か所見つかり、システムを入れる前にすでに作業量が減りました。
📌 ポイント
システムを入れる前に業務を整理することで、「IT化してはいけない無駄」と「IT化すべき作業」が分かれます。整理せずにシステムを入れると、無駄な作業がそのままデジタル化されるだけです。
第2フェーズ:ホームページからの集客を受注につなげ、製造・出荷・入金まで一気通貫に
この会社では、受注の前段にあたるホームページからの集客導線もあわせて整備しました。問い合わせがウェブから入り、そのまま受注・製造・出荷・入金へとつながる流れです。インターネットでの販路拡大から社内業務まで一気通貫でつなぐのも、イオアートの支援の特徴のひとつです。
最初にシステム化したのは「受注から出荷までの流れ」でした。理由はシンプルで、ここが最も情報の断絶が多く、社長が一番「今どうなっているか」を把握したかった部分だったからです。具体的には、受注情報を入力すると製造現場の作業指示に自動で連携し、各工程の進捗を入力すると社長の画面でリアルタイムに確認できる仕組みを構築しました。「A社の品、今どの工程まで進んでいますか?」という質問に、その場で即答できるようになりました。
出荷実績が入力されると入金管理にも連携する流れも整えました。社長が「売上・出荷・入金が初めて一本の線でつながった」とおっしゃったときの表情は、今でも覚えています。長年、頭の中でバラバラに管理していたものが、初めて「見える」状態になった瞬間でした。
第3フェーズ:会計・給与は「つなぐだけ」にとどめた理由
受注〜入金の流れが安定してきたところで、次に会計と給与・勤怠の整備に移りました。ここで私が提案したのは、「新しいシステムをゼロから作るのではなく、既存の会計ソフトや給与ソフトとデータを連携させるだけにする」という方針でした。
理由は2つあります。ひとつは、会計・給与は税理士や社労士といった専門家が関わる領域であり、独自システムにすると専門家が扱いにくくなるリスクがあること。もうひとつは、すでに使い慣れたソフトがあるなら、そこへデータを流し込む仕組みを作れば十分で、ゼロから作る必要がないことです。
全部を自社システムで完結させようとすると、開発コストが膨らみ、保守も複雑になります。「どこまでをシステムでつなぎ、どこからは既存ツールに任せるか」の線引きが、長期的な運用コストを左右します。
結果:経済産業省主催のIT経営表彰に2度選出されるまでに
段階的にITを整備していったこの会社は、その後、経済産業省主催のIT経営表彰に2度選出されるまでになりました。「全ロットの進捗状況がひと目でわかる」「ボトルネック工程の発見と改善ができる」「クイックレスポンスで顧客満足度が上がった」こうした成果が評価されての受賞でした。特別な会社だったわけではありません。順番を間違えなかっただけです。そして、その順番を一緒に考え、現場に合わせて設計したことが、結果につながったと思っています。
全社ITをつなぐときの「順番の原則」3つ
業務フローが整理されていない状態でシステムを入れると、無駄な作業がそのままデジタル化されます。紙とExcelでいいので、まず「誰が何の情報を持って、どう動いているか」を図に起こしてください。ある会社では、この整理だけで「あれ、この作業って必要だったんでしたっけ?」という会話が生まれ、システムを入れる前に業務が2割ほど減りました。
全部を一度にやろうとしないことが大切です。「今一番、リアルタイムで把握したい情報はどこか?」そこから手をつけると、現場も社長も成果を実感しやすく、次のフェーズへの推進力になります。「製造の進捗が見えるようになっただけで、毎朝の会議が10分短くなった」とおっしゃった社長もいます。
専門家が関わる領域は、既存ツールとのデータ連携で十分なことがほとんどです。ゼロから独自システムを作ろうとすると、開発費と保守費が想定外に膨らみます。「どこまで自社で作り、どこからは既存に任せるか」の線引きを最初に決めておくことが、10年後の運用コストを大きく左右します。
この記事のまとめ
- IT化に失敗する会社は「目的があいまいなまま、全部を一気にやろうとする」パターンが多い
- 現場観察で最初に探すのはボトルネック。単なるデジタル化ではなく、業務の足かせを先に見つけてからシステムを設計する
- 全社IT整備は「業務整理→核心部分のシステム化→既存ツールとの連携」の順が基本
- ホームページ・SNSによる集客から受注・製造・会計まで、一気通貫でつなぐことができる
- 会計・給与など専門家が関わる領域は、ゼロから作らず「つなぐだけ」が合理的
- 特別な会社でなくても、順番を間違えなければ経済産業省のIT経営表彰に2度選出されるレベルまで到達できる